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  • 執筆者の写真clue journey

story of "katashigure"

朝起きてすぐに雨が降っていることに気づいた僕は、まだ1日が始まってすらいないのに今日という日をあきらめることにした。


「今までありがとう」

そう言って彼女が出て行ってからどのくらい経っただろうか。


半年が経ったあたりから、数えるのはやめた。


男の方が過去を引きずりがちという、世の中の豆知識みたいなものにこんなにもわかりやすく当てはまるのも、もはや面白いというか滑稽だ。


自分の思いが中途半端なものに感じたのと、彼女のものがそれと同じように感じられるようになるまでの期間はそこまで空いていなかったように思う。

僕が気づいていなかっただけというのもかなり、大いにあり得るのだが。


それからだんだん、隣にいてもいいのだろうか、と思うようになった。


将来はたくさんでなくていいから贅沢な旅行に年に一回は行きたいね。叶わなかったのは残念に思う。


彼女が残していったインスタントコーヒーは、一ミリたりとも減ってはいない。


一人になってからようやく、僕はコーヒーを好んで飲む人間ではないということを思い出した。


毎朝、当たり前のようにコーヒーをお揃いのマグカップに淹れて、ゆっくり飲んだ。

彼女はいつも砂糖をスプーン一杯分入れては、やっぱり二杯にすればよかった、でも洗い物が増えるから今日はいいや、と呟いていた。今はちゃんと二杯入れているのだろうか。


結局、言葉にできたのはなんてことないことばかりだった。

言葉で表すことができたのは、その程度のものだった。


言葉にしなければわからない。


でも、僕が言葉にできるものは少なくて。


それができなかったから。


僕は彼女の言葉を聞くだけで。


それがいいことだとは思っていないかったけれど、それしかできなかった。


外食に行けば君の食べたいものを食べた。

買い物に行けば君の好きなものを僕も買った。

君の好いたものを好いた。

君の見るものを、好いた。


それだけでよかった。


雨は今日のうちに止む予定はないそうだが、聞こえる雨音は弱まっていた。


ベランダに出ると、サンダルの片方はなくなっていた。


残された片方は無視して、一歩、二歩踏み出す。


顔に降りかかる雨が、妙に心地よかった。


そうだ、僕は雨が好きなんだっけ。


残念ながら雨はもうすぐ上がりそうだ。

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